[金沢屋物語]
金沢屋物語 第4話
外から見れば「金沢屋」というのは順調にスタートし、順調に成長していったように見えるかもしれない。
特にテレビ業界の中では、小さなローカル局がなんか面白いことを始めたらしいぞ、ということで、問い合わせも結構あったし、視察というか見学というか、とにかく情報を集めてみようと、わざわざ金沢までお越しいただいたテレビ局も相当数あった。まあ、情報収集ついでに、魚の美味い金沢でちょっと一杯というみなさんもいらっしゃったのかもしれないけれど(結構、夜の街にもお連れしました)。
テレビ業界というのはみなさんが一番ご存知のように、何かひとつ番組がヒットすれば我も我もと同じような番組を制作して、いつの間にかいったいどこの局がこのような番組を始めたのかさえもわからなくなってしまうようなことがよくある。言葉は悪いが、いわゆるパクリがそんじょそこらで横行する業界である。
そして、うまくパクリながらなんとなく自らの形に再形成し、まるで自分が作り上げたような顔をする能力が高い人間が重宝がられたりもする。
それは番組のフォーマット権やアイディアの権利が曖昧であるということに因るのだけれど(最近は番組企画の権利という考え方が少し浸透してきたようだが)、毎日毎日番組を作らざるをえない中、それなりの視聴率が取れたり、収益があがったりする番組が、それこそいつもいつも、そんじょそこらにあるわけでなく、思わずアイディアをちょっと拝借してしまうという気持ちはわからないでもない。とはいえ、大切なのはやはりブランニューであること、ブランニューを目指すことであることには違いない。
「金沢屋」がブランニューであるかという点では、テレビ局のコンテンツとしてという意味でまさにブランニューではあったと思う。ただ、それゆえになかなか大変な思いもしたし、順調に成長しているように見えるその陰で、毎日の悪戦苦闘があったのだ。それが、バックヤードの充実ということなのだが、その時は「金沢屋」にとってのバックヤードというものがいったい何なのかもわからなかった。
バックヤードとは裏庭のことだが、この裏庭がしっかりしていないとどうも玄関はもちろん、居間もキッチンも、とにかく家全体がまったくどうしようもなく見えるらしいのだ。「金沢屋」にとって裏庭とはつまりスタッフの動きであり、それは顧客対応や決済や配送、注文に対してどのようなリアクションを取るのか、どう集金するのか、どのように商品を送るのか、そしていかにお客様に気持ちよく物を買っていただき、気持ちよく買ったものを味わっていただくのか、そのフローがすべてだとようやく気づいたのはスタートしてからかなり経ってからのことだ。
テレビ局が運営するのだから、少しコマーシャルを流せばアクセスしてくれるだろう、ちょっと番組で取り上げれば売れるだろう、そんな甘いものではなかった。どれほど、情報を露出しようが、情報そのものに魅力がなければ誰も興味を持ってくれない。そんな基本的なことを改めて思い知らされたのである。そして、ウェブショップもリアルショップもショップ運営ということでいえばなんら変わることがないこと。ともすれば、ウェブショップの方がお客様との直接のコミュニケーションがないぶん、情報伝達に相当気をつけなければならないことに気づいたのである。